高次脳機能障害の後遺障害等級を上げるためにはどうすれば良い?
交通事故で頭に衝撃を受けたため、脳の神経が傷ついてしまい、認知、記憶、行動、人格など、人間として生きるために大切な脳の機能が損なわれてしまう重大な障害が、「高次脳機能障害」です。
高次脳機能障害が後遺症として残ってしまうと、被害者の方やご家族の生活に大きな支障が生じてしまいます。
一般に、交通事故で後遺障害が残った場合は、後遺障害等級認定を受けて、加害者に対して損害賠償を請求することができます。
しかし、高次脳機能障害は「目に見えない障害」で、症状の有無や程度、因果関係を証明し、後遺障害等級認定を受けることがとても難しいです。
ここでは、高次脳機能障害や後遺障害等級認定の基本について簡単に説明したうえで、認定される可能性がある等級や手に入れられる可能性がある示談金の目安、そして等級を上げるための準備を説明します。
このコラムの目次
1.高次脳機能障害と後遺障害
交通事故で脳の神経が損傷すると、人間らしい生活を送るために必要な脳の機能に障害が生じることがあります。これが高次脳機能障害です。
- 記憶力や判断力など「認知能力」
- 計画性など「行動能力」
- 社会性など「情動能力」
上記のような能力に影響が生じるため、高次脳機能障害が後遺症として残ってしまうと、新しいことを覚えられない・段取りよく動くことができない・自己中心的で感情的になってしまうなど、仕事や家事、人間関係などほぼすべての場面で、従来のような生活が送れなくなってしまいます。
[参考記事]
高次脳機能障害の症状とは?
そのため、後遺障害について損害賠償請求できるかどうかが重要になるのです。
(1) 後遺障害等級の認定
後遺障害による損害賠償金としては、以下の二つがメインとなります。
- 後遺障害慰謝料:後遺障害による精神的苦痛に対する損害賠償金
- 逸失利益:後遺障害の悪影響で手に入らなくなったお金
その他、症状が重ければ介護費用なども請求できる可能性があります。
ですが、そのためには「後遺障害等級認定手続」で「後遺障害」の等級に該当すると認定される必要があります。
後遺障害とは、交通事故が原因で収入を得る能力(労働能力)に一定以上の悪影響が生じたと、後遺障害等級認定手続により認定を受けた後遺症を指します。
医師に後遺症が残ったと言われ、実際に被害者の方の様子がおかしくなっていても、賠償金の請求には後遺障害の認定が必要となります。
[参考記事]
後遺障害認定手続きは「被害者請求」が良いって本当?
(2) 認定条件
高次脳機能障害が後遺障害と認定されるための条件には、以下のようなものがあります。
- 診断書や様々な検査結果、被害者の方のご家族などの報告書から、症状が認められること
- 初診時に検査や診断書で頭をケガしていた記録があること
- 画像検査や意識障害などにより、頭をケガしたせいで脳の神経が損傷したと証明できること
もっとも、それぞれの条件について、どの程度、どれだけ具体的な証拠で証明すればよいのか、はっきりとした基準は公開されていません。
そして、後遺障害に当たると認定を受けたとしても、症状に応じた適切な等級に認定されているかが次の問題となります。
2.高次脳機能障害の等級
後遺障害等級とは、症状の重さに応じて後遺障害をクラス分けしたものです。認定される等級に応じて損害賠償金は大きく変わります。
高次脳機能障害の場合に認定される可能性がある等級は、基本的に1,2,3,5,7,9級です(例外的に12級や14級に認定されることもありますが、ここでは省きます)。
それぞれの後遺障害慰謝料の相場を見てみましょう。
|
自賠責基準 |
弁護士基準(裁判基準) |
---|---|---|
1級 |
1600万円 |
2800万円 |
2級 |
1163万円 |
2370万円 |
3級 |
829万円 |
1990万円 |
5級 |
599万円 |
1400万円 |
7級 |
409万円 |
1000万円 |
9級 |
245万円 |
690万円 |
このように、等級が1段階ずれるだけでも百万円単位で金額が変わります。
ちなみに、交通事故では多くの場合弁護士に依頼することで賠償金の相場が上がり、この相場は、弁護士基準または裁判基準と呼ばれています。
ただし、上記はあくまで目安です。必ず上表の金額になるわけではありません。
特に高次脳機能障害は難しいケースだからこそ後遺障害等級認定を申請する前の準備が重要となります。
3.後遺障害等級を上げるための準備
後遺障害等級を上げるためには、手続で提出する必要書類・証拠となる医療記録の内容を充実させることに尽きます。
どんな症状ならどの等級に当たるかの基準は公表されていますが、大雑把な参考にしかなりません。
基準を気にするよりも、まずは、被害者の方の症状や生活での支障をできる限り具体的・客観的な証拠に残すことに集中しましょう。
そのためには、以下のポイントを踏まえた準備が不可欠です。
(1) 被害者の様子を観察し記録を残す
被害者のご家族は、治療中は被害者の方の症状の内容や程度を観察し、こまめにメモを残すようにしてください。
注意すべきは、事故の「前」と比べて「何ができなくなったのか」「どれほどできなくなったのか」という点です。
高次脳機能障害では、医師よりもむしろご家族など被害者の生活に身近な方のほうが症状をよく理解できます。
医師に診断書や症状の報告書を作成してもらううえでも、大きな参考になるでしょう。
さらに、高次脳機能障害の後遺障害等級認定手続では、医師だけではなく、ご家族など周囲の方も、被害者の事故後の様子を報告する「日常生活状況報告」という書類を作成・提出します。
日常生活状況報告には、具体的な事柄を記載した別紙をつけることができます。メモの内容を別紙に記載して提出すれば、症状をより具体的に捕捉できるでしょう。
職場での様子については同僚や上司の方に、学生であれば教師・担任にも報告書を作成してもらうことになります。職場や学校に復帰して以降の様子について観察してもらうようお願いしましょう。
(2) 知能検査
高次脳機能障害の症状は、どうしても客観的な説明が難しいものです。
症状を裏付けるために、被害者ご本人の記憶力や判断力など高次脳機能そのものの低下をより客観的に証明することができる知能検査を受けましょう。
知能検査といっても、紹介しきれないほど様々なものがあります。一つの検査で確認できる高次脳機能には限界があるからです。
一言に高次脳機能障害と言っても、どの能力に障害が生じているのかは被害者ごとに異なりますが、ほとんどの場合は複数の能力が同時に低下しています。
医師に事故前と比べてどこがおかしいのかを丁寧に説明してください。そうすれば、どの知能検査を行えばよいのか、医師が適切に判断できるようになります。
検査結果と症状の報告書が噛み合って、症状を的確に証明できるようなるでしょう。
(3) 精密画像検査
被害者の方は事故直後にCT検査を受けているかもしれませんが、事故直後に意識障害があった場合や、意識を回復した後の言動がおかしい場合は、精密画像検査として、定期的に精度の高いMRI検査を受けてください。
異常のある画像検査結果は、脳損傷が起きたことを証明する信頼性の高い証拠になります。
一方で、異常のある画像検査結果なしでは、たとえ症状が重くても事故以外の原因が疑われるとして、後遺障害等級が12級や14級になってしまうおそれがあります。
症状を自覚していない被害者ご本人が嫌がることがあるかもしれませんが、できる限り検査をし、症状の原因が「事故による外傷性の」高次脳機能障害だという証拠をつかみましょう。
4.交通事故で高次脳機能障害になったら弁護士へ
「家族が交通事故に遭い、意識を失っていたが無事に目を覚ました。しかし何か様子がおかしい。」…そんな時は、高次脳機能障害を疑ってください。
高次脳機能障害は、被害者ご本人のみならずご家族にも大きな負担になる可能性が高い障害である一方、後遺障害等級の適切な認定がとても難しい傷病です。
できる限り早くから検査や被害者の方の様子を記録するなどして、認定のための資料作りを進めておきましょう。
具体的にどうすればよいのかわからなければ、すぐに弁護士にご相談ください。
個別の事故のポイントを踏まえて、専門家としてのアドバイスができるのは、弁護士だけです。
泉総合法律事務所は、これまで多数の交通事故の被害者の方をお手伝いしてまいりました。
関東に張り巡らした支店ネットワークと、経験豊富な弁護士が、被害者の皆様をサポートいたします。
皆様のご来訪をお待ちしております。
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