痴漢で捕まった!不起訴になるには示談が重要なのは何故?
痴漢で逮捕された人はもちろん、その家族の方も、逮捕された人が今後どうなるのかと心配や不安な気持ちになると思います。何とか被害者に謝罪して示談をしていただければ、不起訴になることもあるのでしょうか。
以下においては、痴漢について、痴漢行為の刑罰について、痴漢行為で不起訴になるケース、示談の重要性などについて、説明することとします。
このコラムの目次
1.痴漢について
痴漢とは、人に対して性的な言動や卑わいな行為などの性的嫌がらせをすることをいいます。
そして、次の法令に違反する犯罪行為です。
(1) 都道府県が制定する迷惑防止条例違反
典型として東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」5条1項1号
尚、埼玉県の「埼玉県迷惑行為防止条例」2条4項)に該当する行為も都条例と同内容
条例違反は、越谷市がある埼玉県の場合、上の条例2条4項の「何人も、公共の場所又は公共の乗物において、他人に対し、身体に直接若しくは衣服の上から触れ、衣服で隠されている下着等を無断で撮影する等人を著しく羞(しゅう)恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。」に該当する行為になります。
条例違反の罪の法定刑は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(東京都は8条1項2号、埼玉県は12条21項1号)、常習となれば、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(東京都は8条8項、埼玉県は12条42項)です。
(2) 強制わいせつ罪
刑法176条
13歳以上の者に対しては暴行・脅迫を用いてするわいせつな行為、13歳未満の者に対しては単なるわいせつな行為
強制わいせつ罪の法定刑は、6月以上10年以下の懲役となっています。
ところで、条例違反行為と強制わいせつ行為の違いですが、犯行の態様から見て、着衣の上からなでまわすなどの行為が条例違反行為であり、着衣の中に手を差し入れて人の体に触る行為が強制わいせつ行為とされる場合が多いです。
そして、条例違反の罪も、強制わいせつ罪も、親告罪ではありませんので、検察官としては、告訴がなくても起訴することができます。
2.痴漢行為の刑罰について
痴漢行為で逮捕された人やその家族にとっては、その刑罰がどうなるのか、心配なことと思われます。
まず、その点について、一般的な状況について見てみましょう。
(1) 統計結果から見た状況
①条例違反の痴漢で懲役刑を受けると過半数が実刑となる
平成27年版犯罪白書(※)の調査報告では、平成20年7月から同21年6月までの1年間に、痴漢行為で条例違反の罪を問われ、懲役刑が確定した者は314人でした。
その中で、実刑判決と執行猶予付判決の数は、それぞれ次のとおりです。
実刑 |
51.6%(162人) |
|
---|---|---|
執行猶予 |
48.4%(152人) |
保護観察無し:133人 |
保護観察付き:19人 |
※平成27年版犯罪白書「第6編 性犯罪者の実態と再犯防止」
みてわかるとおり、条例違反の痴漢行為であっても、懲役刑の判決を受けると、その過半数が実刑判決で刑務所行きとなっています。痴漢行為を軽く考えることができないことが理解できると思います。
②条例違反の痴漢が初犯でも、懲役刑を受けることがある
また、懲役刑を受けるのは前科のある場合だけではありません。条例違反の痴漢が初めての初犯者であっても、次のとおり懲役刑が確定しているのです。
前科なし |
28人(8.9%) |
|||
---|---|---|---|---|
前科あり |
286人 (91.1%)
|
性犯罪前科 |
5.0%(267人) |
|
前刑の内容 |
・実刑91人 ・執行猶予119人 ・罰金240人 (重複計上あり) |
|||
性犯罪以外の前科 |
15.0%(19人) |
初犯であるから、必ず罰金刑となるとか、悪くても執行猶予が付くなどとは言い切れないのです。
③条例違反でも9%が懲役刑を受ける
条例違反の痴漢行為で検挙された件数と懲役刑が確定した人数は次のとおりです。
検挙数 |
3439件 |
---|---|
懲役刑確定数 |
314人 |
単純な比較はできませんが、検挙数に対して懲役刑が確定した人数は約9%です。
90%以上が、不起訴か罰金刑で終えることができていますが、懲役刑を受けた者が1割近くもいることも忘れてはいけません。万が一にも、自分がその1割となってしまわないよう、万全の対策を講じるべきです。
④強制わいせつ罪は4割が起訴される
強制わいせつ罪(痴漢以外も含む)の場合、起訴率と不起訴となった理由について、次のとおりの数字が報告されています。
|
平成26年 |
平成29年(※) |
|
---|---|---|---|
起訴率 |
45.8%(1,459人) |
37%(1,197人) |
|
不起訴率 |
54.2%(1,730人) |
63%(2,040人) |
|
|
起訴猶予 |
161人 |
664人 |
嫌疑不十分 |
490人 |
690人 |
|
告訴の取消し等 |
980人 |
552人 |
平成29年から起訴猶予の人数が急増しています。同年7月から強制わいせつ罪が非親告罪となったため、それ以後は、告訴が取り消され場合や告訴がない場合でも起訴が可能となったものの、その多くは起訴猶予として処理されているためです。
上の数字は、痴漢行為に限った強制わいせつ罪ではないので、厳密なことは言えませんが、4割近くが起訴されていることを軽視するべきではないでしょう。
(2) 処分及び判決
まず、条例違反の罪の場合ですが、上記314人の中には前科がなくても、懲役刑の有罪判決に処せられている例があるとはいえ、処分や判決の一般的傾向としては、初犯で示談が成立すれば、不起訴処分となり、また、初犯で示談が成立していない場合には、罰金となる可能性が高いといえます。
そして、同種の罰金前科があっても、初めての正式裁判であれば、執行猶予が付くと考えられます。
しかし、罰金であっても、前科が付きますので、前科が付かないように不起訴処分が得られるには、被害者との間で示談を成立させことが必須のことになります。
次に、強制わいせつ罪の場合ですが、近時の性犯罪の厳罰化の傾向から、常習的に痴漢行為を繰り返している場合、同種前科がある場合、犯行態様が悪質で被害が甚大な場合には、初めての正式裁判であっても、実刑の可能性があります。したがって、示談を成立させて少しでも情状を良くするよう努力するべきでしょう。
なお、初犯の場合、被害者との示談が成立すれば、不起訴処分の可能性が高いといえますし、仮に、正式裁判となっても、執行猶予が付くと考えられます。
したがって、いずれの罪の場合も、被疑者に有利な結果が得られるためには、被害者との示談が必要不可欠なのです。
3.痴漢行為で不起訴になるケース
上記2の(1)の状況からしますと、最も顕著といえるのは、条例違反の罪であれ、強制わいせつ罪であれ、被害者と示談が成立し、被害者の処罰感情が緩和された場合には、不起訴になるケースが多いということです。
検察官が起訴不起訴の決定をする際には、諸般の事情が考慮されますが、その中でも、特に、被害者の被害が回復しているかどうか、被害者の処罰感情が強いかどうか、被疑者は反省しているかどうかという各事情は重視されます。
示談の成立は、示談金の受け取りにより被害が回復し、処罰感情が薄らぎ、被疑者も反省の態度を具体的に示したと評価できます。
このため、示談の成立は、不起訴決定を行うために有利に考慮される事情となるのです。
4.示談の重要性
上記からも明らかなように、検察官の不起訴処分の判断を得るには、被害者との示談が重要なことになります。
では、被害者と示談をするには、どうしたらよいのでしょうか。
示談交渉をしたくても、痴漢行為のような性犯罪の場合、通常は、被疑者やその家族は被害者の連絡先を知りませんし、警察や検察官も、被害者の連絡先や氏名を教えてくれることはありません。そのため、被疑者やその家族は、弁護士に弁護を依頼する必要があります。
弁護士であれば、警察や検察官も、被害者の了解を得て、その連絡先や氏名を開示してくれる可能性があるからです。
弁護士は、その開示が得られれば、被害者に連絡して、示談交渉を進めていきます。
被害者が未成年の場合には、示談交渉の相手は被害者の保護者である両親になります。弁護士は、被害者(特に、未成年の被害者)の心情に配慮しながら、被疑者の真摯な反省と誠意ある謝罪の気持ちを、被害者(被害者が未成年の場合はその保護者)に受け入れてもらうよう努力します。
これらを受け入れてもらえれば、被害者側との示談の成立の可能性が高くなります。
示談において、最も望ましいのは、示談金を受け取ってもらい、示談書に「宥恕する」、「寛大な処分を望む」、「処罰を望まない」などの宥恕文言を記載してもらうことです。
ただ、被害者によっては、示談金は受け取るものの、示談書に宥恕文言を記載することは拒否されてしまうケースもあります。
その場合でも、次善の策として、宥恕文言抜きでも示談書は作成する必要があります。というのは、被疑者が示談金を支払う義務を認め、これを被害者が受け取って、民事賠償の問題は決着がついたという事実を明らかにすることは、やはり被疑者に有利な事情となるからです。
性犯罪に対する社会一般の評価から、痴漢行為についても厳しい非難は免れませんが、示談が早ければ早いほど、痴漢行為に対する不起訴処分の可能性が高くなりますので、もし逮捕された場合には、逮捕された直後の早い段階で、弁護士に依頼することが望ましいことになります。
5.まとめ
痴漢など絶対にしないと思っていても、ふと魔が差して痴漢をしてしまった、ということは誰にでもあり得ることです。条例違反の罪といえども、逮捕・起訴されたりしますし、処分が罰金であっても前科となります。
不起訴などで最終処分を有利に導くためには、刑事弁護の経験豊富な弁護士に弁護依頼をしてください。
泉総合法律事務所は、刑事事件、中でも痴漢の弁護経験につきましては大変豊富であり、勾留阻止・釈放の実績も豊富にあります。
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